「母のことば」 (その2)

85歳になる私の母は、時々色々な事をやっては、家族をびっくりさせてくれる。
先日も、こんなことがあった。


よく行くデパートの食器売り場でのこと。
顔なじみの店員さんの元気がなく、沈んだ顔をしている。


いつもなら私たち親子をみつけると、「いらっしゃいませ~」 と笑顔で迎えてくれるのに、
今日は、心ここにあらずといった様子で、私たちが来たことに気がついてもいない様子だった。


母 「どうしたのかしら〇〇さん。今日は元気がないわね」
私 「体の調子でも悪いんじゃないの?」


そんな会話を交わした直後、母はス~っと彼女に近づいて行った。
そして、彼女に向かってこう言った。


「どなたかお身内にご不幸でも?」


彼女はハッと我に返り、やっと母に気がついたようだった。


「大変失礼いたしました」


彼女はそういうと、泣き笑いのような顔になった。
きっと、何か心をふさぐことがあったのだろう。


母は 「お大事に」 とだけ言って、売り場を後にした。
彼女は、いつもより深く頭を下げて、私たちを見送った。


彼女に何があったのかは、知る由もなかったけれど
「どうしたの?大丈夫?」 という思いで、声を掛けることしかできなかったけれど
心をふさぐことが早く解決して、いつもの笑顔が彼女に戻ることを私たちは祈った。


それにしても、母の言動には、まったくびっくりさせられる。


この 「どなたかお身内にご不幸でも」 という言葉は、
我が家の 「流行語大賞」 になりそうである。

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